落ちて来たのは、イケメンでした。

「え? 何を――んっ」

 男の首の後ろに掴まれていない方の手を回し、その腹立たしい顔にグッと近づく。
 そして、今度はサチの方が男の唇を奪ってやった。

 掠るだけではない、しっかりと互いの感触が分かるキス。
 舌は入れないけれど、唇を食べるように(ついば)んだ。

 微動だにしない男から顔を離すと、驚きに目を見開いて固まっているのが見える。

 先程からヘラヘラしていた男を驚かせることが出来て胸がすく思いをしたサチは、ふふっと笑って得意げに言い放った。

「私、やられたらやり返す主義なので」


 だが、スッキリした気分だったのはそこまで。
 見開かれた男の目が細められると、その表情から“余裕”の二文字が抜け落ちた。

「あー……ヤバ、本気になりそう」

 熱っぽい眼差しがサチの目を捕らえる。

(あ、まずいかも……)

 そう思ったときにはすでに遅く、掴まれていた手はさらに強く握られ、男のもう一つの手がサチの腰を引く。
 体が密着して、元々そこまで離れていなかった唇がまた触れた。

 今度はすぐに唇をこじ開けられ、舌が入って来る。
 舌裏をすくわれ、歯列がなぞられ、貪るように食べられてしまう。

「んっ……ふぁ……」

(どうしよう……気持ちいい……)

 アルコールの入った体は理性などすぐに溶かしてしまう。
 それでも僅かに残った理性の欠片がダメだと訴えてくるのに、サチはもう抵抗する意思を無くしてしまっていた。


「っはぁ……悪いけど、もう止められないから。俺に火をつけた責任、取ってもらうぜ?」

 熱い吐息と共に告げられる。
 その表情は真剣なもので、先ほどまでの軽さはない。
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