落ちて来たのは、イケメンでした。
***

「こんばんはー。お邪魔しまーす」
「……」

(何故来る⁉︎)

 その日の夜、早くも思い出になるはずだったトオルがまた来てしまった。

 驚いてうっかりドアを開けてしまったのも悪かったのだが、平然と入って来る彼もどうなのだろうと思う。


「ちょっと! 何で来てるんですか⁉︎ というか入ってこないでください!」
「良いじゃん。今度はちゃんと自分の食材とかも買ってきたし」
「いやいや、自分の家で食べて下さい!」

 玄関でトオルの体を押しながら問答する。

「じゃあさ、名前教えて?」
「……サチです」

 これ以上関わりたくないので教えたくは無かったのだが、教えないことには帰らないのかと思い仕方なく教える。

 なのに、名前を聞いたトオルは昨日の様にサチの手を引き、抱きしめた。

「ちょっ! 離し――」
「サチ」
「っ⁉︎」

 甘さを含んだ呼び声に息を呑む。
 トオルの体温を感じて、昨夜の熱を思い出してしまった。

「サチ……うん、やっぱり名前を呼びながらあんたを抱きたい」
「ダメ、です。……一夜の戯れって言ったじゃないですか」

 拒否の言葉を口にするが、すでに欲の蠟燭に火が灯ってしまった。
 強く拒めない自分を叱咤しようとしても、本能の誘惑は理性を鈍らせる。

「悪いね。俺、サチに本気になっちゃったみたいなんだ」

 そうして唇を塞がれた。

「サチ……んっ」

 名前を呼ばれながらのキスはハチミツのように甘く、ドロリと理性を溶かしてしまう。

(流されちゃ……ダメなのに)

 そう思う心は、与えられる甘い熱に押しやられてしまって……。


 結局また、サチはトオルを受け入れた――。
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