聖なる夜に王子様と初めての口付けを
ーーーー私は、夢を見ていた。

袖にパールが、あしらわれた、お気に入りの白いワンピースに、黒のショートブーツ。ノーカラーのグレーのカシミヤのコートを羽織り、耳元には、ボーナスで奮発して買った、大粒のダイヤモンドのピアスが光る。胸元には、ピアスとお揃いのダイヤのネックレスが揺れている。

私は、プレゼントを抱えて、イルミネーションが輝く街路樹を横目に、待ち合わせの時計台へと駆けていく。

(早く行かなきゃ……)

手元の時計を見れば、待ち合わせまであと5分。

時計台の下には、長身のスーツ姿の彼が、待っている。

何故だか、こちらに手を振る、彼の顔がよく見えない。走っても走っても、全然彼の元へ辿り着けない。

「待って!」

私が、なかなか、彼の元に辿り着けないことに怒ってしまったのか、彼は、くるりと背を向けて歩いていく。

「お願い、待って……」

彼の姿が、見えなくなると同時に、時計台もイルミネーションも蝋燭の灯りが、パッと消えるように、一瞬で泡になっていく。

「やだ……一人にしないで……もうすぐ行くから……」

私は、一生懸命手を伸ばしていた。さっきの彼に届くように。

手を掴んでほしくて。
側に居てほしくて。


ーーーー実花子。

(……誰?)

優しくて、あったかくて、ほっとする声。

「側に居て……」

多分、そう口にした気がする。

そして、伸ばした掌は、私より、大きな掌が包み込んでくれる。


ーーーー私は、夢と現実の境目が、あいまいなまま、ゆっくりと瞼を開けた。
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