無口な担当医は、彼女だけを離さない。


家に着いてすぐ世那くんは温かいココアを入れてくれた。


そのココアがまた私の安心感を掻き立てて泣きそうになる。


本当に良かった。あのまま連れていかれないで。世那くんが来てくれて。



「まぁ居酒屋ってああいうクソみてぇやつも多いからな。今度からは栞麗も気を付けること」

「うん…でも世那くんヒーローみたいだったよ」

「ヒーロー?なんだそれ」

「だって私がもう無理かもってなった時に世那くんが来てくれたんだよ。すごいよ」

「…ほんとのヒーローは人のこと殴ったりしねーよ」



それは、確かに…。



「今日は…ご飯いいや。これ飲み終わったらお風呂入って寝るね」

「…ん」



なんだか今日は疲れたし、もう寝よう。


明日もバイトか…やっぱり怖いな。


でもこんなこと言ってたらどこでも働けないし、ここは腹をくくるしかないよね。


私は自分にそう言い聞かせ、リビングを出た。

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