無口な担当医は、彼女だけを離さない。


私がそう言うと山本くんは笑って首を横に振った。



「違う違う、ありがとうってこと」

「えっ、」

「斎藤さんにとってはしんどかったと思うけど…僕は親をちょっと尊敬し直したというか。まぁ縁は切られちゃってるけど」



勝手に山本くんみたいな人は家庭環境も良くてなんの悩みもなく生きてこれたんだろうなと思ってしまったことがある。


でもそんなことなかった。


きっと悩みのない人なんかいなくて、みんなそれぞれの地獄があってその中で生きてるんだ。



「だから斎藤さんもその人のこと嫌いになっちゃう前に会いに行きなね」

「その人…?」

「泣いてた原因の人」



昨日までちゃんと話したこともなかった同級生に慰められるなんてほんとに情けないね私。


よし、ちゃんと世那くんに謝ろう。優愛さんにも。


いつまでもこんな子供みたいに隠れてらんない。



「ほんといきなりごめんね…ありがとう。会ってくる」

「うん、頑張れ」



私は山本くんに別れを告げ、走った。

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