無口な担当医は、彼女だけを離さない。


齋藤栞麗は一見しっかりしてそうだけど中身は思ったよりも弱い。


よく泣くし、常に何かを抱え込んでいる。


この間海斗と俺と彼女で飲みに行って泥酔した時も、泣いていた。



「おいまじで置いてくぞ、まじだからな」

「や…だぁ…」

「だからじゃあ立てよ」

「みんな…私を置いて、どっかに、いっちゃう…」

「…は?」

「柊さん、も…私のこと、捨てちゃう?」

「ちょ、何言ってんだよ」

「みんなっ…、わたし、のこと置いてくから。嫌な言葉だけ残して、…いなくな…っ」



こんな酔ってる時の言葉を信じるやつの方が馬鹿かもしれない。


でも家に着いてからもその言葉は頭から離れなかった。


彼女の、誰にも言えなかった本音を聞いてしまった気がして。

< 72 / 308 >

この作品をシェア

pagetop