無口な担当医は、彼女だけを離さない。

***

「…あ、また間違えた」



その日は23時までバイトで、家に帰るのは24時近くなった。


まだ柊さんの家に帰る習慣がないからたまに道を間違える。今日もそうだ。


ぼーっとしてたり、落ち込んでたりすると必ず自分のマンションにたどり着いてしまう。


そのせいで帰る時間は倍の時間に。


迷った理由は恐らく今日またお母さんが出てくる夢を見てしまったから。


しかもきっとそれは、お母さんが亡くなった日の夢。


柊さんや深川さんにも私のせいじゃないって言われたけど…癖でどうしても自分を責めてしまう。


だから今日のバイトでもミスばっかり。3年目だし後輩ちゃんもいるんだからしっかりしなきゃいけないのに。


でも最近の私がギリギリ普通でいられているのは…きっと柊さんの存在があるから。



「ただいま…です」



柊さんの靴があった。今日はいるのか。


柊さんもまだ医者の中では若い方なので結構こき使われることが多いらしく2日くらい帰ってこないこともある。



「遅い。バイト終わってからもう1時間も経ってる」

「え、怖っ。私今日柊さんに終わる時間言ってましたっけ」

「あまりにも遅いからお前の友達に聞いた」

「なんか束縛激しい彼氏みたい…」

「あ?」

「なんでもないです手洗ってきます」

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