「Of My Disteny」ー手、繋ごうー
七海学園には食堂がある。

でもそれぞれの部屋にキッチンが付いていて、自由に料理できるようになってる。

だから生徒たちはどっちでご飯を食べてもいいんだけど楽だからって理由で学食を使ってる人の方が多くて、私も基本学食を使うことが多かった。

だけど今日は、夕飯を作ってみようかなって思ったりして。

買い出して来た食材をテーブルに並べる。

んー、どうしようかなー
何が…好きかな?
無難なのにしようかな。
失敗しにくいやつがいいよね。
何してもおいしくなるやつ!

「ただいま」

一ノ瀬くんが帰って来た。

「おかえりなさいっ」

エプロン姿で出迎えることになっちゃって、これはなんだか新婚さんみたい。

あ、やばいっ
また意識しちゃう!

「あれ?今日は夕飯作るの?」

「う、うん!せっかくキッチンあるしっ」

それより何より本当は、まだちゃんと言えてなかったから。

「一ノ瀬くんっ、体育の時はありがとう…!」

助けてくれてありがとうって。

「あのねっ、お礼にご飯を作ろうかなって…思ったんだけど。あ、あの!迷惑じゃなければ!よければ!…一緒に食べませんか?」

たった数秒もなかったんだけど、この時間がすごくドキドキした。

やっぱり一ノ瀬くんの顔がうまく見れなくて、足元ばかり見ちゃった。

「うん、喜んで」

「本当に!?」

「うん、高橋さんが作ってくれるなら」

「あー…あのでもっ」

もちろんそのつもりで誘った。
私が料理を振る舞おうって、それは大前提そうなんだけど。

「あんまり料理は得意じゃないの」

散々食材とにらめっこしてたんだけど勉強もそこそこ運動もそこそこの私は家庭科さえも得意じゃない、“料理は”なんて言い方しちゃったけど正しくは“料理も”だ。

「だから一ノ瀬くんが作る方がおいしいかもしれないけど…、心を込めて作るから!」

きっとなんでもできちゃう一ノ瀬くんが作る方が私なんかよりおいしいご飯が作れるに決まってる。

「…そんなことないよ、俺も料理は出来ないから」

「えっ、そうなの!?意外!」

勝手なイメージ、欠点なんてなくて料理だってなんだってできるのかと思ってた。

そっか、一ノ瀬くんも全部が完璧なわけじゃないんだね。

「呆れた?」

靴を脱いで玄関を上がる、目を伏せてどこか物寂しい瞳で私を見た。

「全然!親近感沸いた!」

むしろそっちの方が好感度急上昇っていうか。

「今のですっごく近く感じた!」

「そう…かな?」

「うん!あ、でも変な意味じゃないよ!そうゆう意味じゃなくて…っ、あれ!?どうゆう意味かな!?」

一ノ瀬くんが笑った。

だけど、少し違和感があったように見えたんだ。

笑う前の表情がちょっとだけ気になったの。
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