ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
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粧子は灯至が家にいない平日の昼間を見計らって産婦人科を受診した。
「妊娠三ヶ月ですね」
「そうですか……」
予想通りの医師の診断に、喜んでいいのか落胆すればよいのか分からなくなる。茫然自失となるあまり、医師の話を半分も聞いていなかった。
診察が終わるとお会計を済ませ、次回の診察予約を取り付ける。
「こちら差し上げますね」
帰る際、受付の事務員から診察の時に撮ってもらったお腹の中にいる子供のエコー写真をもらった。
妊娠三ヶ月の赤ちゃんはまだ人の形にもなっていない。白黒の小さな陰影はこれから十月十日の時間をかけ大事に育まれる。
嬉しい……。
この身体に新しい命が宿っていると思うだけで感動と喜びが溢れ出してくる。
粧子は写真をバッグの中に大事にしまうと家路を急いだ。
妊娠したことは灯至にはまだ話せない。しかし、いずれは知られてしまう。
灯至に対する罪悪感と未来への不安に苛まれ、頭がグルグルと回る。……違う。本当に視界が反転している。
粧子は口元をおさえてその場に蹲った。吐き気がする。これが噂の悪阻というやつなのか。直ぐにおさまってくれることを祈るばかりだった。
深呼吸をしながら、排水溝の蓋の模様を見つめ続けていると、何人もの人が粧子を素通りしていく。
そんな中、一人だけ話しかけてくる人がいた。
「あれ、粧子さん……!?どうしたんですか!?」
エコバッグを携えた買い出し途中と思しき麻里は粧子の元に駆け寄ってきた。
病院とSAWATARIがそう遠い距離でもないこともあるが、麻里とはよく道端で出くわすなと、虚な頭の片隅で思った。