ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「スポーツドリンクはここに置いておきますね。いちごも洗っておきますね。フルーツサンドの試作用にもらったものがまだ冷蔵庫の中にあるんです」
沢渡家は取り壊されてしまった大叔母の家に雰囲気が似ている。どこにいても家主の温かみを感じた。
粧子は畳から起き上がると、スポーツドリンクをちみちみと飲んだ。麻里がヘタをとり食べやすいように切ってくれたいちごも口に運んだ。甘くて水々しくて……切なくなる。こんな風に優しくされる資格なんて粧子にはない。
「あ、粧子さん。良かったらオレンジも食べます?」
台所から顔を覗かせた麻里はポロポロと泣き出している粧子を見て、ギョッとしていた。一度泣き出したら止まらなかった。もうひとりでは耐えられそうにない。
「ずっと……灯至さんに嘘をついていたの……」
「え、あ、嘘……?」
「私は……本当は大叔母の孫でもなんでもないの。赤の他人なの……」
「粧子さん……?」
「どうか……私の話を聞いてもらえませんか?」
麻里は粧子の懇願を快く承諾してくれた。
妊娠を隠そうとしたことから、深い事情がありそうだと察したのかもしれない。
麻里から連絡を受けた明音も帰宅し、二人に話を聞いてもらうことになった。