ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「それで、赤の他人というのはどういうことなんですか?」

 麻里の恋人でもあり、灯至の兄である明音が口火を切る。

「私は十歳まで宇多川粧子という名前でした。両親が事故で亡くなり、ヒラマツの先代でもある祖父の采配によって平松家の養子になりました」
「養子……?」

 どうやら粧子が養子であることは、かつての縁談相手である明音も知らなかったらしい。

「母の由乃は生まれてすぐに児童養護施設に預けられたそうです。母を施設に預けたのは先日亡くなった大叔母です。父親は槙島家の先代のご当主だと祖父からは聞いております」

 そう、ここまでは灯至もよく知るところだ。母の由乃は大叔母と槙島の先代である吾郎との間に生まれた私生児であることは間違いはない。紋白蝶の髪留めがそれを裏付けている。問題は粧子の方にある。

「大人になった母は同じ職場で働いていた父と結婚しました。しかし、二人の間に子供は生まれませんでした。私は……父の連れ子なのです。父は私が生まれてすぐ離婚し、その二年後に母と再婚しました」
「つまり、粧子さんは由乃さんの実子ではなく継子だということですか?」
「はい。このことは灯至さんもご存じありません」

 自分が父の連れ子だと知ったのは、今際の際の祖父の話の真偽を確かめるために戸籍を確認した時だった。母の欄には見知らぬ女性の名前が記されており、その時初めて自分が連れ子なのだと知った。
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