ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
電話から十分ほど経つと、インターフォンが鳴った。灯至は明音が到着するなり胸倉を掴んで、壁に押し付けた。
「粧子をどこにやった!!」
「珍しいな、灯至。お前がこんなに怒り狂うなんて」
「うるさい!!」
明音は敵意がないことを表すように両手を上げた。
「少しは落ち着けよ。お腹の子に障らないように粧子さんは然るべき場所に匿っている。安心しろ」
「子供……!?」
「彼女、ひとりで産んで育てる気だぞ。たとえ遺産目当ての男の子供でも可愛い我が子には変わりないそうだ」
灯至の頭の中にはいくつもの疑問が浮かんでいく。
なぜ、明音が遺産のことを知っている?
明音が知っているということは、明音に匿われている粧子も?
遺産のことを知ったから粧子は出て行ったのか?だが、粧子の秘密を知る者は限られているはず。誰がもらした?
「灯至、正直に言え。お前……本当は"どこまで"知っていて粧子さんと結婚したんだ?」
「兄貴には関係ないだろ」
「惚れた女と子供の前でも同じ台詞が言えるのか?」
明音は灯至の手を振り払うと、今度は胸倉を掴み返した。
「粧子さんを愛しているなら、みっともなく足掻いてみせろよ」