ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

 着替えを済ませた茅乃と遊んでいると、来客を知らせるインターフォンが鳴る。
 
「こんにちは」
「明音さん、いらっしゃい」

 玄関の扉を開けると、そこには明音が立っていた。明音は定期的に粧子達の様子を見に遥々車を走らせてくるのだ。

「大きくなったね、茅乃ちゃん。はい、伯父さんからお土産だよ」
「いつもありがとうございます」

 明音は来るたびにラトル、歯固め、音の出る絵本などの茅乃への貢物を持参してくれる。今日は立派な鍵盤がついたピアノのおもちゃをもらった。ありがたいことだ。

 粧子はお茶を淹れ、ダイニングチェアに座る明音の前に置いた。茅乃はピアノが気に入ったのか、ベビーゲートの内側でしきりに鍵盤を叩いていた。ポロロンとポロロンとはちゃめちゃなメロディーを奏でる。

「今回は俺一人ですみません。麻里も茅乃ちゃんに会えるのを楽しみにしていたんですが、なにせ店をひとりで切り盛りしなくちゃならなくて……」
「栞里さんが妊娠されてから、麻里さんもおひとりで大変でしょう。よろしくお伝えください」

 粧子が街を離れて半年ほど経ってからか のことだが、栞里の妊娠が発覚した。それから、交際していたジローと入籍し今では一児の母となっていた。四ヶ月前に生まれた男の子は光汰(こうた)と名付けられたそうだ。
 栞里が妊娠・出産で店を離れる間、麻里はSAWATARIの看板をひとりで背負っていた。流石にアルバイトを雇ったようだが、麻里の責任と苦労は計り知れない。

< 114 / 123 >

この作品をシェア

pagetop