ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「戻るか戻らないかはともかくとして、一度あいつの話を聞いてやってください。これは俺の個人的なお願いです」

 明音は今すぐに結論を出す必要はないと、答えを保留にしてくれた。おもちゃに夢中な茅乃の頭をひと撫ですると、一人で奮闘する麻里の元へ帰って行った。

 使い終わった湯呑みを洗いながら、明音の言葉の意味を今一度考えてみる。

 遺産目当てではない……?いいえ、まさか……。

 灯至に愛されていると、都合の良い夢を見る資格は自分にはない。粧子が灯至を謀っていたという事実は決して消えることはない。
 
 やっばり無理よ……。

 明音の考えを真っ向から否定したその時、茅乃のいるリビングからガタンと大きな音がした。慌ててリビングの様子を見に行く。ベビーゲートから手を伸ばしたのか、チェストの一番下の引き出しが手前に引っ張り出され床に落っこちていた。

「茅乃ってば!!もうこんなところまで届いちゃうの?」
 
 危ないものは最初から隠すようにしていたが、まさかこんなところにまで手が届くようになるとは。そろそろ家具の配置を見直さないといけない時期らしい。

「まんまあ……。あー!!」
「あ、れ……?その髪留め……」
 
 茅乃は灯至からもらったダイヤモンドの蝶の髪留めを手に持っていた。
 本当は置いていったつもりだったが、由乃からもらった紋白蝶の髪留めと一緒に誤って持ってきてしまった。見るのが辛くて引き出しの奥に追いやっていたのに、偶然にも掘り起こされてしまったようだ。

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