ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
茅乃の手によって縦横無尽にぶんぶんと振り回されている様は本当に蝶が舞っているかのようだった。
粧子は髪留めをもらった時のことを思い出した。
あの時が一番幸せだったのかもしれない。灯至に心惹かれつつも、彼からの厚意を素直に喜ぶことができた。
ああ、そうか……。
粧子はとうとう真実に気づいてしまった。
子供のためと大義名分を振りかざしていたが、結局のところ灯至に愛されていないという事実を受け入れたくなくてあの家から逃げ出したのだ。
初めての失恋が辛くて、悲しくて、やるせなくて、妊娠を言い訳にして逃げ出した。浅はかで身勝手な行為だった。
もう、決着をつけよう……。
灯至に会って離婚届を出してもらおう。
粧子はそう決意するとその夜、明音に電話をかけた。
「もしもし、明音さん?はい、粧子です。あの……帰り際におっしゃっていたお話なんですけど……。一度。灯至さんとお会いしようと思います。日にちはお任せします。私はいつでも結構です」
電話を終えると粧子はベビーベッドで眠る茅乃の可愛い寝顔を見つめ、額にキスをした。すやすやと眠る茅乃とは反対に粧子はなかなか寝つくことができなかった。
明音にはああ言ったものの、灯至に会うと思うだけで言いようのない不安が押し寄せてくる。