ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「もう謝らなくていい。俺も粧子に黙っていたことがある」
「俺も……?」

 どういうことかと灯至の顔を見上げる。
 
「……粧子の産みの親はまだ生きている」
「と、うじさん……?」

 何を言っているのかよくわからず、頭が混乱する。なぜ灯至が粧子の産みの親の行方を知っているのか。

「結婚する前からすべて知っていた。粧子が槙島の縁者ではないことも、由乃の実子ではないことも。全部知っていて黙っていた」

 すべて知っていた?それも、結婚する前から……?

 身体から力が抜けガクンと膝が抜ける。その場に崩れ落ちそうになった粧子を灯至が支えた。

「んぎゃー!!」

 不穏な空気を感じ取ったのか、それまで大人しく昼寝をしていた茅乃が俄に泣き出す。
 灯至は部屋の中に上がると茫然とする粧子をダイニングチェアに座らせ、泣いている茅乃を抱き上げた。

「悪いな、脅かして。もう少しだけ寝ていてくれ」

 頭を撫でられ、抱っこで揺らされた茅乃は灯至の言うことがわかったのかスヤスヤと再び寝息を立て始めた。
 茅乃をベッドに寝かせタオルケットを被せた灯至は粧子に正面から向き直った。

「全てを話す」

< 119 / 123 >

この作品をシェア

pagetop