ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「それで……秘密を知っていると私を脅してどうされたいの?」
「脅す?一体何のことだ?」

 灯至は戯けるように肩をすくませてみせた。

「何も要求なんかしないさ。ただ、あんたの心に留めておいて欲しかっただけだ。他の連中に土地を売られたら、再開発計画そのものが頓挫しかねないからな」
「それを世間では脅しと言うのでは?」
「若輩者なので物を知らないんだ。悪いな」

 灯至は悪びれることなくいけしゃあしゃあと言い切った。なるほど。悪事を企むことにかけては、明音よりよほど適正がありそうだ。

「まあ、強いて言うなら秘密を暴かれたあんたが慌てふためく姿が見てみたかった。……なかなかどうして肝が座っているじゃないか」
「それはどうも」

 褒められても全く嬉しくないってことある?

「また来る。それまでに婆さんに入所の意思を聞いておけ」

 灯至は用件が済むと長居せずにさっさと帰って行った。

 十二月の冷たい風が吹き荒ぶ。聖域を土足で踏み荒らされた粧子の心も同じように荒涼としていた。
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