ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「秘密を守りたいならなおさら俺と結婚しておいた方がいい」
「……なぜ?」
「俺は民間の調査会社を使ったが、時間と金さえかければ、あんたの素性を割り出すことはそう難しくない。槙島のライバル企業の中には、俺達の足を引っ張るためならなんでもするような汚い奴らもいる。あんたを脅して婆さんごと抱き込むくらいはやってのける」

 粧子が一番恐れているのは、大叔母に秘密を知られてしまうことだ。いまさら孫だと知られて、大叔母の心を悪戯に乱すようなことだけはあってはならない。

「俺がバックについてればそういう連中から守ってやれるし、お望みなら爺さんの真似もしてやる」
「代わりに私は何を差し出せばいいの?」
「あの土地を確実に槙島に売ってくれればそれでいい」

 土地の権利書をしまった金庫の場所と鍵の番号は粧子と大叔母しか知らない。何人たりとも持ち出すことは不可能だった。結納の席で大叔母は粧子の意向を尊重すると言ってくれたし、槙島に売ること自体に異論はない。

 粧子は大きく息を吸い、そして吐き出した。灯至の提案に返事をするには勇気が必要だった。

「わかりました。貴方と結婚いたしましょう」

 粧子にとっても結婚をして平松の家から出ることは、願ったり叶ったりだった。
 泰虎からの視線は年々熱を帯びていく。ひとつ屋根の下で暮らしていて、いまだに貞操が無事なのが不思議なくらいだ。槙島の名前を盾にとれば、かつてのように連れ戻されることもないだろう。
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