ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「へえ……。随分と物分かりがいいんだな。あの婆さんがそんなに大事か?実の孫だと名乗れずとも、肉親の情は湧くものなのか?」
灯至は感心したように呟いた。自分から提案したくせにひねくれている。
「なんとでもおっしゃって。あと、お忘れかと思いますが私の名前は粧子です」
あんた呼ばわりは失礼だと言外に指摘すると、灯至はクツクツと押し殺したように笑った。そして、遠慮なしに粧子の顎を指で持ち上げた。
「いっそのこと子供も作ってみるか?ジジイどもの積年の想いを成就させてやるのが、本物の孫孝行ってもんだろ」
「離してっ……!!」
下卑た欲望の対象にされ、粧子の羞恥心と怒りは最高潮に達した。手を振り払うと灯至の右頬を平手で打った。
「あ……」
打ってしまった後に我に返ったが、灯至は声を荒らげるようなことはしなかった。欲情の炎が瞳に閃き、粧子はたじろいだ。
「教えがいがある」
「んっ……!!」
灯至は怒らない代わりに粧子の両方の手首を掴み、強引に己の唇をねじ込んだ。
怒り任せに乱暴にするのではなく、粧子の性感帯を探り当てるように口内を蹂躙していく。口を塞がれては抗議もままならない。
何度目かわからない応酬の末、灯至はようやく唇を離した。
「平手の詫びは受け取った。今度は叩くなよ。夫になるんだからな」
粧子の唇から掠め取った紅を親指でぬぐうと、灯至は大叔母の家から出て行った。
口づけで屈服させられ粧子は乱れた息を整えるだけで精一杯だった。
こんな男と結婚しようだなんて……早まったかもしれない。