ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
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話がまとまってからの灯至の行動は驚くほど早かった。尊大な求愛の翌週には平松家に改めて挨拶にやって来た。
「この度、粧子さんと結婚させていただきたくご挨拶に参りました」
客間に案内された灯至は畳に手をつき、頭を下げた。槙島家の次男が家にやって来ると戦々恐々としていた両親は、灯至の用件がわかるとあからさまにホッとしていた。しかし、それも束の間のことだった。
「うちの粧子とですか……?」
「はい」
破談から一か月も経たないうちに弟の灯至に相手がすげ変わるとあって、流石の両親も尻込みしていた。養母は助けを求めるように粧子の顔色を窺った。
「粧子、あなたはそれでいいのかしら?」
「ええ、構いません」
粧子は灯至の隣で小さく頷いた。家のためというとってつけたような理由で結婚するより、よほど納得感がある。
「あなたが良いと言うのなら、こちらとしては歓迎するしかないわね。ねえ、あなた?」
「ああ。粧子、おめでとう」
平松の養父母は良くも悪くも目先の利益と世間体にしか興味のない人達だ。当初と相手は違えど槙島家と遠続きになれるとあって喜ばないはずがない。
それほどまでに槙島の名前は強大だった。
客間にお祝いムードが漂う中、ただひとり異を唱える者がいた。