ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「粧子!!君はこの男に何か弱みでも握られているのか!?でなければ、こんな非常識がまかり通るものか……っ!!」
泰虎はテーブルに手を叩きつけ、灯至を罵った。今にも殴りかかってきそうな剣幕に、慌てて泰虎を宥める。
「泰虎兄さん、この結婚は私が望んだことなのです……!!」
「ええ、そうですよ。結婚は我々の総意です。なあ、粧子」
不意打ちで肩を抱かれ、蕩けるような甘い視線を送られた粧子は、頬を染めながらコクコクと頷いた。毒を吐かない灯至に見つめられたら誰でもこうなる。
照れる粧子を見た泰虎は更に激昂した。
「粧子に触るな!!血の通わないケダモノめ!!」
薄々は感じていたけれど、灯至さんは性格が……良い方ではないわね……。
泰虎が粧子にただならぬ想いを抱いていると見抜いた上で、俺のものだと見せつけるように肩を抱いてみせた。まるで悪魔のような所業だ。
「結婚式にはご招待しますので、妹の晴れ姿をぜひ親族席でご覧になってください」
『妹』という単語をいくらか強調した灯至からの牽制と嫌味に対し、泰虎は目を血走らせ、悔しそうに唇を噛んだ。強く噛みすぎたせいで血が滲み出てくる。
粧子はハラハラしながらこの場を見守っていた。無用な挑発はして欲しくなかった。せめて家を出る日までは穏やかに過ごしたい。
泰虎は客間の障子を開け放つと、ドスドスと大きな音を立てながら板張りの廊下を歩いていった。