ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
波乱づくめの結婚の挨拶を終え見送りのため家の外に繰り出すと、灯至は被っていた猫を引き剥がし怒りを露わにして粧子に迫った。
「何だ、あの男は?」
「普段の泰虎兄さんはとても温厚な人よ。ただ……昔から心配性で……」
「あれが妹に対する態度なわけがあるか。あんたの目は節穴か?」
節穴かと罵られても言い返せなかった。
粧子に出来る自衛の手段など、泰虎の気持ちに気づいていない振りをしてやり過ごすぐらいしかない。明確な拒絶の意思を示さなかったことが、泰虎を増長させたのは否めない。
就職を機に一度は平松の家を出た粧子を呼び戻したのは泰虎だった。養母が入院することになり、人手が減ったヒラマツ本店は新たな働き手を求めていた。
泰虎と養母の二人掛かりで懇願された結果、粧子は慣れたばかりの仕事を辞め平松の家に戻り女将業を引き継いだ。養父母への義理を果たす以上の意図はなかったが、これが泰虎の心に密かに火をつけた。
彼はこのまま粧子が女将になれば……という途方もない青写真を描いてしまった。