ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
粧子は途方に暮れ、視線を彷徨わせた。灯至は大きなため息をつくと、粧子の右腕を掴むとブラウスの袖を捲り上げた。
「な、なにを……!!」
灯至は胸ポケットからサインペンを取り出し、手首の内側の目立たないところに携帯の番号らしき数字を書いた。
「いいか?何かあったら遠慮なく連絡しろ」
粧子は目を瞬かせた。灯至の気遣いが手に取るようにわかったからだ。
「ありがとうございます……」
粧子は電話番号の書かれた手首をさすりながら素気なく礼を言った。長らく養子として生きてきた粧子は人の顔色を伺うことには慣れていても、誰かに手を差し伸べてもらうことに慣れていない。
槙島灯至という男はつくづく掴み所のない男だった。立ち退きを強引に推し進め無理やりキスをしてくる一方で、義兄から性愛の対象にされている粧子の身を案じたりもする。
なぜだろう……。傲慢な人ではあるのに、あまり怖くないわ……。
ふいに湧き出た感情に粧子自身、驚いていた。