ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
桜の花が綻び、春の訪れを言祝ぐウグイスの鳴き声が多くの人の耳を楽しませるようになった、そんな良き日に灯至と粧子の結婚式は行われた。
「どうぞ」
新婦控室の扉が控えめにノックされ入室を許可すると、タキシード姿の灯至が現れる。新婦の粧子も準備万端で、挙式が始まるのを待っていた。真っ白なウェディングドレスに、髪には由乃から譲り受けた紋白蝶の髪留め。髪留めをつけて結婚式を上げることを灯至は了承してくれた。
「ああ……本当に蝶々が髪にとまっているようだな」
灯至は粧子の晴れ姿を見ると、亡くなった実父と同じ台詞を口にした。
ドクンと大きく心臓が鳴る。
なぜ……?
こんなにも胸がときめくのだろう。この結婚は互いに利害が一致しただけで、そこに愛はないのに。
「行こうか、粧子」
アテンド係が時間を知らせると、灯至は粧子を礼拝堂へと誘った。灯至に手を引かれ、バージンロードをゆっくりと歩く。
結婚式に参列した者は紋白蝶の髪留めの秘密を知らない。
「病める時も健やかなる時も、互いを愛し合うと誓いますか?」
「誓います」
「誓います」
神父と型通りのやりとりを行い、指輪を交換した。誓いのキスは少し緊張した。正面に立つ灯至があまりにも素敵だったから。今からこの人と夫婦になるのだと思うと、どこか落ち着かなかった。
二人の結婚式には多くの人が参列し、新米夫婦の新たな門出を祝ってもらった。
しかし、そこに泰虎の姿はなかった。