ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

 なぜ傷跡のことを黙っていたのかと、なじられるのを覚悟していたが、灯至は粧子ですら予想だにしない行動に打って出た。

「見せてみろ」
「え……?」
「隠そうとするなよ。その傷跡とやらをすべて見せてみろ」

 有無を言わさぬ声色に、粧子は戸惑いながらもゆっくりとした動きでバスローブの紐を解いた。肩から布地を滑らせ、ショーツ一枚のあられもない姿を曝け出す。

 粧子の左の脇腹には十センチほどのミミズが這ったような醜い傷跡があった。事故の際、割れた窓ガラスが脇腹に刺さった。幸いなことに臓器は無事だったが、事故から一八年経った今でも傷跡は生々しく残り続けている。
 チクチクと突き刺すような視線に耐えられず粧子はバスローブを羽織り直した。

「これで気が済んだでしょう?もう寝ましょうよ」
「……話はまだ終わっていない」
 
 切長の瞳が粧子を捉え、蛇に睨まれたカエルのように動けなくなる。灯至は粧子の顔を掬い上げると唇を割り、奥深くまで舌を探り入れた。

「ん……っ!!」

 口づけは徐々に激しいものに変わっていき、最後にはベッドに押し倒されていく。

「あ、待って……!!どうして……?」

 なんとか押し退けようともがいたが、粧子にのしかかる灯至の身体はびくともしなかった。

「色っぽい身体を見せつけられて、欲情しない男がいるのかよ」

 切羽詰まったような掠れた声で扇情的な身体だと囁かれ、かあっと頬に朱が混じる。

 灯至さんの目には私の身体は魅力的に映っている……?

 こんな傷だらけの身体でも抱きたいと思われていることに喜びを感じた。

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