ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
水着以外にもサンダルとラッシュガードを購入したら、ビーチまで泳ぎに行くことになった。
水着に着替えてラッシュガードを羽織ると、脇腹はおろか背中の傷も見えなくなり、安心した。
更衣室の外で灯至と落ち合うと、妙に気恥ずかしかった。
「あの……どうですか?」
「……悪くない。もっと肌を見せてもいいくらいだ」
ぶっきらぼうだが、これが灯至なりの褒め言葉らしい。二人はホテルの敷地内を歩き、ビーチへと向かった。
「この辺り一帯はホテルが所有するプライベートビーチだ。首都郊外の混雑した海水浴場よりもマシだろ」
灯至の言う通り、ビーチにいる人はまばらだった。それでもラッシュガードを脱ぐことにはまだ抵抗があった。陣取ったパラソルの下でいつまでももたもたしていると、見かねた灯至が助け舟を出した。
「人の目線が気になるなら俺のことだけ見てろ」
まるで映画のワンシーンのような決め台詞に、かあっと頬が赤くなる。
「灯至さんって……意外と気障なのね」
「言ってろ」
気障だと指摘され照れくさかったのか、灯至は粧子から顔を背けた。
初めて灯至の年下らしい一面を垣間見た気がする。粧子は勇気を持って羽織っていたラッシュガードを脱ぎ捨てると、灯至の手を取り共に海へと駆け出した。
太陽の元に素肌をさらけ出すのは久し振りだ。真夏の日差しはジリジリと焦げるほどに熱い。