ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
おずおずと波の中に足を入れると、予想外の冷たさで背筋がぞくぞくした。
沖縄の海は綺麗で、足元まで水が透き通っていた。サラサラと流れる砂は真っ白で、掬い上げると手の隙間からこぼれ落ちる。
腰まで水に浸かるとすかさず灯至に引き寄せられる。
「潜ってみるか?」
粧子が頷くと灯至はレンタルショップでシュノーケルを借りてきてくれた。
事故に遭ってからやめてしまったが、粧子は元々水泳スクールに通っていた。水着に抵抗があるだけで、泳げないというわけではない。潜るのは大好きだ。マウスピースを咥えて、灯至と合図を受け一緒に海底へ潜っていく。
なんて綺麗なの……。
海の中に潜ると、そこは別世界だった。波に揺れるイソギンチャク。色とりどりの小さな魚達。天から光が降り注ぎキラキラと輝く水面。こんなに素敵な世界があったなんて……。
「ねえ、見た!?あの魚、小さくてすごく可愛いかったわ!!」
粧子は水面に上がると興奮して灯至に抱きついた。
「そんな顔で笑うんだな」
そんな顔ってどんな顔……?指摘するほど変な顔だったの?
どんな顔をしていたのかいくら聞いても、灯至はニヤリと笑うばかりで答えてくれなかった。意地悪!
泳ぐのに疲れたら砂浜を散歩した。水平線の彼方に沈んでいく夕日は素晴らしくて、つい何枚も写真を撮った。今日という日をいつまでも残しておきたかった。