ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
日が暮れるとホテルのあちこちにキャンドルが灯され、シックな雰囲気になる。
夕食はホテルにあるレストランで取ることにした。水着からワンピースに着替え、灯至にエスコートしてもらう。
「美味しい……」
「よく食べるな」
「身体が資本の仕事でしたから……」
「痩せているよりもずっといい」
沖縄の食材をふんだんに取り入れたフレンチフルコースは一品一品の完成度が高く、粧子の舌を満足させた。デザートを食べ始める頃になると、ホールの中央ではピアノの生演奏が始まった。味覚だけでなく、聴覚も楽しませてくれるなんて、至れり尽くせりだ。
初日から沢山遊んで沢山食べた。粧子はレストランから戻ると、行儀悪くベッドに寝転んだ。
「もうクタクタ……」
ソムリエに勧められたワインが美味しくて、ついお酒も進んでしまった。
出来ることならこのまま眠ってしまいたいが、酔いが進みすっかり熟成され食べ頃になった新妻を灯至が逃がすはずがない。ギシリとスプリングが軋む。ベッドにうつ伏せになっている粧子に灯至の重みがのしかかる。
「夜はこれからだろう?」
灯至はそう言うとシャツを脱ぎ、薄ら日に焼けている厚い胸板と割れた腹筋を惜しげもなくさらけ出した。粧子も同じようにワンピースを脱がされ一糸纏わぬ姿にさせられる。
標本を作る時、羽に割れや傷があると価値が下がるという。灯至に抱かれていると傷だらけの自分でも価値があるのではないかと思えてくる。
……夜の帳が静かに降りる中、蝶が何羽も舞い踊る。