ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
後編



「着工記念パーティー?」
「ああ、粧子にも出席してもらうからそのつもりでいてくれ」

 粧子は帰宅した灯至から来たるべき三週間後の金曜日に、槙島グループ主催のパーティーが開催されることを聞かされた。

 槙島グループ肝入りの再開発計画は、先日建設予定地域への住民説明会を実施し、地権者全員に建設への同意を取り付けた。立ち退きもほとんど終わり、晴れて年内着工の目処が立った。これから二年掛けて建設が始められる予定だ。

「私も出席するのでしょうか?」
「これからも公の場に顔を出してもらうことはある。慣れてくれ」

 結婚してから半年が経つが、灯至からパーティーの同伴を依頼されたのは初めてのことだ。
 槙島に嫁いだ時点で、いつかこういう時がやって来るかもしれないと覚悟はしていた。
 槙島家の嫁として、妻として、灯至に恥をかかせるわけにはいかない。粧子に課せられた使命はことのほか重い。

「パーティー用のカクテルドレスは持っているか?」
「確か五年ほど前に買ったものがありますが……。まだ着られるかどうか……」

 確か就職してすぐの頃、友人の結婚式に出席するために、ネイビーのフォーマルドレスを買ったはず。年数が経っているので生地が幾分くたびれてしまっている。買い直す必要があるかも知れない。

「なら、買いに行こう。明日の午後なら時間が取れる。三時に下のエントランスの前で待ち合わせでいいか?」
「わかりました」

 仕事を早抜けして買い物に付き合ってもらうなんて申し訳ないとも思ったが、粧子一人では何を選べばいいのか正解がわからない。
 結局のところ灯至についてきてもらうのが、一番良いだろうと粧子は内々で結論づけた。
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