ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
翌日、粧子は居住区側のエントランスで灯至の到着を待っていた。
灯至の職場は同じ槙島スカイタワーの十一階にある。槙島都市開発という槙島家の関連会社で本部長をしている。
槙島スカイタワーには他にも槙島の関連会社が多く入居していた。灯至もいずれは槙島のヒエラルキーの頂点に立つことになる。その時には粧子も隣にいるのだろうか。ちっとも想像がつかない。
「粧子、待たせたな」
約束の時間から五分ほど遅れて灯至がやって来る。車止めには既に迎えの車がまわされており、ともに銀座へと出発する。
灯至が連れてきたのは『fairy』という女性向けのハイブランドの旗艦店だった。
ファッション雑誌ではよく見かける全女性が憧れてやまないブランドだ。
装飾が華やかな正面入口から店内に入ると、商品が並ぶ店頭ではなく店の奥へと案内される。光沢のあるブラックの扉を開くと、そこはVIP用の個室になっていた。革張りのソファ二脚に猫足のテーブルを見ると、ちょっとしたカフェに案内されたかと勘違いしてしまいそう。ベロア調の布で覆われた試着室がなければ、買い物に来たとは到底思えなかった。
「妻に似合いそうなカクテルドレスを見せてくれ。一緒に一式必要なものも見繕ってもらいたい」
「かしこまりました」
「粧子、サイズは?」
雰囲気に気圧されていた粧子は、灯至から服のサイズを聞かれていることに気づかず返事がワンテンポ遅れてしまった。