ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「え!?あ、えーっと……9号です」
店員が灯至からのオーダーに従い服を用意をしている間に、紅茶と小菓子が用意される。
渡されたメニューから適当に銘柄を選んだが、言わずもがな最高級の茶葉だ。
こんなにゆったりしながら買い物してていいのだろうか。
歓待を当然のように受け取る灯至と異なり、小市民の粧子はビクビクしながら紅茶を啜った。
そうこうしているうちに店員がハンガーラックを押して戻ってくる。
「奥様は華奢でいらっしゃいますので、こちらの細身のタイプのドレスが良くお似合いになるかと……」
店員はハンガーラックの中からドレープが美しいワインレッドのドレスを取り出し、灯至と粧子に見せた。
わあ、素敵……。
胸元からウエストにかけてのレースの刺繍が特に美しい。職人が手間暇かけて縫い付けたビジューの輝きがよく映える。
「着てみろよ」
灯至から指示され、粧子はドレスとともに試着室に押し込まれた。恐る恐る袖を通し、試着室から出て来ると、ドレスと同系色のクラッチバッグとピンヒールが既に用意されていた。
店員がジュエリーケースからアクセサリーを取り出していく。
雫型のビジューが縦に三つ連なったイヤリングと、ゴールドチェーンのフェミニンなバーネックレスはドレスに負けないほどの美しさだった。