ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

 血を分けた兄弟とはいえ、明音と灯至は纏う雰囲気が随分異なる。明るくユーモアがあり紳士的な明音に対し、灯至の態度は冷淡そのもの。縁談が破談になりかけている女性を前にして慰めるそぶりさえ見せようとしない。

「分不相応な結婚なんて最初から望んでいないもの。私はただ静かに暮らしたいだけ」
「可哀想な女」

 負け惜しみを言っていると思ったのか、灯至は侮蔑と憐れみをこめた視線で粧子を見下ろした。
 可哀想なんて軽々しく他人に言うものではない。諭してあげるのが年上の役目かとも思ったが、今日会ったばかりの他人にそこまでする義理はない。

「可哀想な女かどうかはご自分の目でちゃんと確認なさるといいわ」

 粧子はキッと灯至を睨みつけた。そして、己に委ねられた土地の権利書を大事に抱えると、自分を探しにラウンジにやってきた母の元へと駆け寄った。

「ああ、良かった……。どこに行ったのかと思ったわ」
「灯至さんが気を利かせて連れ出してくれただけです。私はどこにも行きませんよ、お母さん」
「ああ……!!どうしてこんな事になったのかしら……。それもこれも、あの槙島の長男のせいだわ……!!」

 粧子は恨めしそうに呟く母の背中をそっとさすってやった。一連の騒動の対応に苦慮したのか、母の表情には疲れが見えた。
 粧子は明音を非難する気にはなれなかった。
 自由にどこへでも飛び立てる明音がひたすら羨ましかった。
< 7 / 123 >

この作品をシェア

pagetop