ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「中華と洋食どちらが良い?」
「灯至さん!!」
「リクエストがないなら中華にするぞ。スープの美味い店がある」
……違うのよ。食事の好みを伝えたいわけではないの……。
灯至は粧子の戸惑いなど知ったことかと会計を済ませ、購入した物を自宅へ配送する手配を終えた。
「ほら、行くぞ」
灯至は肘を曲げ、腕に掴まりやすいようにしてくれた。こうなったら言うことを聞くしかない。粧子は灯至の腕に掴まり、歩調を落とした彼に寄り添いゆっくりと足を踏み出した。
買い物をした後、そのまま食事に行くなんてまるでデートのようだ。しかも、灯至のエスコートで。
結婚前も二人で出掛けたことはあったが、いずれも結婚式の準備というタスクをこなすために粛々と行われる類のものだった。現地集合現地解散だったし、着飾る必要もほとんどなかった。
こうして街中を歩いていると周りの人の視線が灯至に集まるのがよく分かる。
百八十センチをゆうに超える身長。顔は小さく、手足は長く、まるでモデルのようだ。ありふれた路地が彼が歩くだけでランウェイに変わる。
ただ容姿が整っているだけではない。灯至の身の内から溢れる自信、槙島を背負って立つという自負。どこをとっても向かうところ敵なしの灯至は強者の佇まいが身についていた。
灯至にエスコートしてもらっている優越感と、服だけ立派でいまいち垢抜けない自分への劣等感が交互に押し寄せてきて、粧子はどういう顔でいればいいのかわからず口元をもにょもにょと動かした。
しかし、今回は優越感が僅かに勝った。
誰もが振り返る彼の口づけの甘さを知っているのは自分だけ……。
そう思うと心が浮き足立ち、灯至の腕を掴む手に自然と力が入った。