ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

 『fairy』から五分ほど歩くと、目的の中華レストランに到着する。
 ここでも粧子達は個室に案内された。
 周りの目が届かないのは大変ありがたいことだったが、何十万とする服とアクセサリーを身につけて食事することには変わりない。
 粧子はトンカチ代わりにして釘でも打てそうなほどにカチカチに緊張していた。
 
「そんなに肩肘張るな。これくらいで緊張していて本番はどうするつもりだ?」
「だって……。こんな素敵なお洋服、汚したら困るもの……」
「汚したらクリーニングに出せば良いだろう?」

 適当な物言いに粧子はキッと灯至を睨みつけた。高級ブランドがずらりと並ぶ灯至のワードローブと同じにしないで欲しい。

 自慢じゃないけどfairyの服なんて一枚も買ったことがないんだから!!

 灯至は新妻のささやかな反抗にクックっと喉を鳴らした。

「胸を張れ。お前は俺が選んだ女だ。その服も良く似合っている」

 灯至は上機嫌で食前酒を飲み干した。
 ある意味いつでも自然体の灯至が羨ましくなる。
 灯至なりに緊張を解そうとしてくれているのだと、粧子はいいように解釈することにした。
 スープが美味いという前評判は嘘ではなく、おすすめの中華料理のフルコースをたっぷり堪能した粧子は、ドレスがはちきれそうになりながらその日帰宅したのだった。

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