ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
着工記念パーティーは槙島パークホテルの鳳凰の間で行われる。
奇しくも粧子達が披露宴を行ったのと同じ大広間だった。
受付を済ませ会場の中に入ると、既に三百人ほどの招待客が集まっており、各々話に花を咲かせていた。会場奥にある高砂にはスライド用のスクリーンとマイクが用意されている。粧子は手近にあった椅子に着席した。パーティーの前には、再開発計画の音頭をとる槙島家および関係会社の重役より開会の挨拶がされる。
時間になると最初に壇上に立ったのは槙島の女帝こと、姑の槙島久江だった。
槙島グループの会長を務める彼女から来場者全員へ丁寧な謝辞が送られていく。
「続きまして、槙島都市開発株式会社、本部長よりご来場の皆様に再開発計画の全容をご説明致します」
司会者に促され、マイクを持った灯至が壇上に立つ。まもなく会場が暗くなり、スライドが始まる。誰もが固唾を飲んで灯至の言葉を待っていた。
「会場の皆様、槙島の誇る再開発計画のご覧ください」
灯至は高砂の脇に並んでいる役職持ちの中で誰よりも若かったが、重要なプレゼンを任されるに足る人物だということはすぐに明らかになった。
灯至は堂々たる態度と落ち着いた声で、槙島グループの再開発計画の全容を朗々と説明していった。
構想から十年。総敷地面積は東京ドーム二つ分とほぼ同じ。
オフィス、ショッピングモール、住居、病院、公園を兼ね備えた超大型の複合施設、その名は『槙島リバティガーデン』。
来て良かった……。
灯至が目指したもの、作りたいと願ったものが知られて良かった。粧子はスライドが終わると、夫に惜しみない拍手を送った。
照明が元に戻ると場所を隣のホールに移し、立食パーティーの始まりとなる。