ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「粧子さんの髪留め、細工が素敵ね。黒髪にとても似合っているわ」
「わあっ……!!ありがとうございます」
灯至から贈られた髪留めを果歩に褒められて粧子は嬉しくなった。
「今度果歩にも髪留めをプレゼントしようかな」
「もうっ!!そういうことじゃないのよ、昴くん!!」
「ダイヤとパールどっちがいい?じゃんけんで決める?」
「お願いだからやめて〜!!」
二人のやり取りを見ていた粧子は思わず微笑んだ。結婚式を先日終えたばかりの若夫婦が仲睦まじくじゃれ合う様は羨ましくもあった。
「粧子」
会話が弾んでいたところで粧子は灯至に呼ばれた。
「すみません。夫に呼ばれたので行きますね」
「またお店で」
「はい」
小さく手を振る果歩にお辞儀をして、粧子は灯至の元へと駆け寄った。
「楽しそうに何を話していたんだ?」
「内緒です」
ふふふと微笑む粧子に灯至は首を傾げるばかりだった。
この後、パーティーはつつがなく終わり、接待があるという灯至とはホテルで別れた。
終わった……。
大役を果たし家に帰ってくると、粧子はすぐさまドレスを脱ぎ、私服に着替えた。髪も解き、髪留めを元通り箱にしまう。
ふと思い立ち、由乃からもらった髪留めをチェストから出して二つの蝶々を横に並べた。どちらも甲乙つけがたい美しさだった。粧子は二つ髪留めを胸に抱き締めた。
二羽の蝶々、どちらも同じだけ愛おしかった。粧子は心の中でお礼を言うと、髪留めをチェストの中に大事にしまった。