ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「旦那さんへの贈り物ですか?」
「はい」
「あまり参考にならないかも。ジローさんは物欲があまりないから。あ、でも誕生日にアイマスクをあげたら喜んでくれたっけ」
「アイマスク……」
エンジニアをしているというジローと灯至では趣味も職種も異なる。参考にするには、感性がかけ離れているかもしれない。
あまり参考にならなかったことを察したのか、栞里がそっと助け舟を出してくれた。
「スーツを着てお仕事をされるなら、普段から使える物がいいんじゃないかしら?ネクタイ、時計、カフスボタン、ハンカチとか……?寒くなってきたら手袋とかマフラー?」
「ネクタイ……。そうですね、ネクタイなら私にも手が届きそう……」
毎日スーツを着て出掛ける灯至なら、ネクタイを贈られても使い所に困らないだろう。
色は何が良いだろう。情熱を表す赤?知的な印象の青?どちらも灯至に似合いそう。生地はシルクがいいだろうか?変わった素材の物でも灯至なら使いこなせそうだ。
物思いにふける粧子を見て、栞里はムフフとしたり顔で笑った。
「粧子さんって旦那さんのことが本当に好きなんですね」
「え……?」
私が、灯至さんを好き……?
予期せぬ指摘に粧子は目を丸くした。今まで一度として頭の中に浮かんでこなかった発想だった。