ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「奥様、こちらはいかがですか?男性への贈り物として人気のお色です」
ぼうっとしながらネクタイを手に取っていた粧子は店員に話しかけられ慌てて顔を上げた。
「あ、はい。素敵ですね。でも、もっと色が濃い方が彼には合うかも……」
粧子は仕事終わりに遠出しデパートまでネクタイを買いにやってきていた。
コンシェルジュからクリーニングを受け取り、クローゼットにしまう際に灯至が普段から身につけている小物のブランドをこっそり調べた。
海外ブランドの一点物となるとお手上げだが、幸いなことに灯至の愛用するブランドはデパートにも店舗があった。
「これにします」
勧められた物以外にも何点か見せてもらい、結局ダークグリーンのネクタイを購入した。ギフトラッピングもしてもらったし、あとはどう渡すか考えるだけ。
お礼……そうよ、これは単なるお礼なのだからオドオドする必要なんてないはずだわ。下心はない……もの。
言い訳を考えれば考えるほど沼に嵌っていっているとは露知らず、粧子は自分を正当化していった。
理論武装をすっかり済ませた粧子は帰宅したばかりの灯至にこっそり近づいた。
「灯至さん」
「どうした?」
「こちら、どうぞ。灯至さんから髪留めを頂いたのでそのお礼です」
「お礼?」
灯至は粧子からギフトボックスを受け取り、ラッピングを解いていった。ブランドのロゴ入りの平箱の中からネクタイが現れると目を見張った。