ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「わざわざ買いに行ったのか?」
「はい。灯至さんの普段お使いになっているブランドのショップがデパートにもあったので……」
ネクタイを見ると灯至は急に無言になった。気に入らなかったのだろうか。今更いらないと返却されても困る。
「お食事は済ませて帰っておいでですよね?お茶でも淹れてきます」
「粧子」
突き返される前にキッチンに逃げようとした粧子は、戻ってこいと言わんばかりに手招きされた。
「つけてくれ」
灯至はそう言うと、首に締められていたネクタイを自ら解いた。
ソファに座る灯至から手解きを受けながら、渡したばかりのダークグリーンのネクタイを締めていく。
「そう、その輪を通して反対側に送って……」
「……出来た」
粧子は何度か失敗を繰り返し悪戦苦闘しながらも灯至のネクタイを締めることに成功した。
「どうだ?」
「お似合いです」
店員に勧められた売れ筋の物よりも、色が濃い方が灯至に合うと思っていた。予想通りで頬が緩んだところに、顎を持ち上げられて啄むようなキスをもらう。
何度キスしても初めてのような気恥ずかしさに襲われる。
尊大で強引でどこか冷めている灯至だが、粧子に対する態度は蝶を慈しむようかのように優しい。
指で髪を梳いてもらい、頬を撫でられると頭がふわふわとしてきて、すぐに夢見心地になる。もっと触れてほしいと願ってしまう。