ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「恋人がいる明音のために結納をぶち壊したり。整理券をガキに譲ったり。好きでもない男に結婚できて良かったと、てらいもなく言ったりする」
「だって……本当のことだから……」
好きでもない、というのは訂正の必要があるものの概ね間違っていない。
「ああ、そうだろうな。あんたが他人を思いやれる女だから結婚したんだ」
粧子は灯至の言葉の真意を探るように、先を歩く彼の背中を見つめた。
灯至さんは私のことをどう思っているのだろう……。
「どうした?帰るぞ、粧子」
灯至はいつまでもその場に立ち尽くす粧子に帰宅を促した。
今の粧子に灯至を好きだと言う資格はない。これ以上の幸せを望むならもう隠していられない。本当のことを言わなくては……。
「あの!!灯至さん、私……。貴方に言わなければならないことが……」
粧子が話している途中で割り込むように、灯至のスマホが着信を知らせた。灯至は胸ポケットからスマホを取り出すと、粧子に構わず通話を開始した。
「……もしもし」
出端を挫かれた粧子は、小さく縮こまりながら灯至の電話が終わるのを待った。
「はい。わかりました。わざわざご連絡ありがとうございました」
灯至は通話を終えた後もしばらくスマホを見つめていた。
「どうしました?」
「電話は老人ホームからだった……平松モト子が亡くなったそうだ」
その知らせを聞いた瞬間、粧子の目の前が真っ暗になった。園内を流れるやかましいBGMも一切聞こえなくなる。
大叔母さんが……?
突然の訃報を受け狼狽する粧子に、冬の訪れを感じさせる冷たい風は容赦なく吹きつけた。