あの花が咲く頃、君に会いにいく。
「あの、その前に…」



優香さんがもう一度髪の毛を伸ばすと、私と楓をふんわりと包み込んできた。


すると白い光がぱっと体を包み込んだかと思うと、腕の痛みや疲労感がすっかりとなくなっていた。


それは楓も同じなようで、驚いたように自分の手のひらを見つめ固まっている。



「悪霊だから正気を忘れると、いつも人を傷つけてしまうの。あなたが言う通り、こんなことがしたいわけではないんだけど…。ごめんなさい」


「すごい…こんなことまでできるの?」


「もう二十年はこの世にいるから、できることが増えたのよ」


「すごい…。ね、楓!」



座り込んでいる楓に駆け寄ると、楓が驚いた表情のまま小さく頷いた。



「悪霊が人の傷を癒すなんて、聞いたことがない。…でもだからと言って、これ以上は危険な気がする。いつまた正気を失うかわからないだろ。俺たちが思っていた以上にあいつは悪霊としての力が強い。今日はもう帰って…」


「ダメだよ。優香さんに一緒に夜の学校を探検しようって言ったの。今帰るなんてできない」


「でも…」



小声で話しながら優香さんをちらりと見た楓に、大丈夫と笑いかける。



「優香さんも言ってた通り、本当に人を傷つけたいわけじゃないんだよ。だから必死に殺さないように自分を制御しようと頑張ってた。私にはそれが伝わってきたよ。さっき一瞬だけ優香さんの記憶が、過去が流れてきたの。優香さんは病気のせいでずっと孤独だった。だからこの世に未練を残したまま今も悪霊として留まっている。ずっと苦しんでいるんだよ。私はその苦しみを、なくしてあげたい」
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