あの花が咲く頃、君に会いにいく。
明るい声を意識しながら早口でまくしたてる。


そうでもしていないと、今にも泣いてしまいそうだったから。



「…俺の両親は、俺が中学生の頃に離婚した」


「…え?」


「母親がよそで男を作って出て行ったんだ。それから親父と二人暮らしだったけど、俺が高校に上がるタイミングで海外赴任することになって、着いてくるかって聞かれたけど俺は日本に残ることにした。だから一人暮らしをしてる。学費とか生活費とか、親父が送ってくれるけど、なるべく迷惑かけたくなくてバイト代でなんとかやってる。そういう環境で生きてきたから、恋愛とかそういう馬鹿げたことに俺は興味がない。人はどうせ離れていく。それなら最初から友達も恋人もいない方がマシだから」



そっと後ろを振り向くと、楓は暗闇の中何を考えているのかわからない表情で私をじっと見つめていた。



「…だけど、早乙女や中町たち、柴崎さん一家みたいに変わらない友情や愛もあるんだって知った。だから恋愛にも、少しだけ興味が持てた」


「…そっか。楓の人生はまだまだ続いていくんだから、これからしていけばいいんだよ。私ができなかった分も、楓は誰かと恋をして」



ずきりと痛んだ胸に気づかないふりをして楓に笑いかける。



「…早乙女だって、まだできるだろ」


「あはは、何言ってんの。私の人生はもう終わったの。幽霊になってから恋をしたって、もう遅いんだよ」



…もう、遅いの。だからこの気持ちはいらない。



「楓は幸せな家庭を築いてね」



今の私にできることは、未来のある楓の幸せを願うことだけだから。
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