あの花が咲く頃、君に会いにいく。



翌日。学校が終わってから、茅乃に教えてもらった私の家に楓と一緒に行くことになった。


覚えてはいないけど、早乙女と書かれた表札の家の前に立つと、なんだか懐かしい気がした。



楓が少し緊張した様子でインターホンを押した。


…しかし、一分くらいが経過しても誰も出てくる気配はなかった。


念の為もう一度インターホンを押したが、結果は同じだった。



「私、ちょっと中見てくるね」



そういえば私は中に入れるんだと気づき、玄関をすいっとすり抜ける。


物をすり抜ける時のこの感触ももう慣れた。



木でできた廊下を歩いていき、閉め切られているリビングの扉もすり抜けて中に入る。


中にはダイニングテーブルに突っ伏している女の人がいた。…もしかして、この人がお母さん?



–––「紫音」



「…っ!」



何かを思い出しかけたが、頭が痛いだけでそれ以上は思い出せなかった。



「随分、悲しんでいるようだね、君のお母さん」


「うわぁ!…天使様」



よいしょと行儀悪くテーブルの上に座った天使様が、お母さんの頭をそっと撫でた。
< 61 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop