あの花が咲く頃、君に会いにいく。
「子供を亡くしたお母さんってきっとすごく辛いんだろうね。君のお母さんの場合は、最愛の子供を二人とも亡くしてしまって、夜も眠れてないみたいだね」


「…天使様にお母さんの何がわかるのよ」


「あ、ごめんね。決めつけとかじゃなくて、この薬。随分と強い成分の睡眠薬だね。まあ無理もないよね。今まで若くして亡くなった少年少女たちの担当をしてきたけど、どの子の親もみんなこんな感じで憔悴しきってたな」


「…私のお母さんなことはわかるんだけど、何も思い出せない。お母さんともう一度会うためには、記憶も未練も思い出さないといけないのに…」


「君の未練にお母さんが関わってなかったら意味がないけどね」


「まあ、そうだけど…」



そんな意地悪を言われなくても、私だってわかっている。


…それでも、お母さんにはもう一度会いたい。こんなにしてしまったのは、紛れもなく私なんだろうから。



私はお母さんに何か伝えたかったのかな…。


もやがかかっているかのように思い出せない記憶に、苛立つ。



「大丈夫だよ。君はきっと記憶を取り戻せる」


「…え?」


「じゃ、またね。僕も忙しいんだ」



天使様はにこっと微笑むと、前みたいに一瞬で消えてしまった。


まだ突っ伏しているお母さんに触れないけど、そっと触れてみる。



「きっと、思い出すから。それまで待っててね、お母さん」
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