あの花が咲く頃、君に会いにいく。
「そうか。やっぱり思い出の場所に行くことで、少しずつ思い出せるのかもしれないな」


「思い出す?なんのこと?」



そういえば柴崎さんには何も話していなかった。


生前の記憶がないことを話すと、柴崎さんはとても驚いたように目を丸くしていた。



「そうだったんだ…。早く思い出せるといいね。でも、あれだね。楓くんと出会えてよかったね。記憶がないのに誰も頼れる人がいなかったら、僕だったらもうやっていけないよ…」


「あはは、そうですよね。…あ!そういえば、楓の叔母さんのお花屋さん。私、昔にお兄ちゃんと行ったことあったんだよ!すごい偶然だよね。だから現世に戻ってきた日も、釣られるように行っちゃったのかな」


「そうなのか。全然知らなかった」


「へぇ…。なんだか運命みたいだね。二人が出会ったのは、偶然なんかじゃなくて必然なのかもよ。なんだか素敵だなあ。こういうのって恋愛に発展しちゃうやつだよね!」


「やめてくださいよ。俺は死んだ人間に興味なんてありません」


「私だって楓なんか…!」



あれ…?なんだか、胸がずきりと痛んだような…。



「そんなことより、早く行きましょう!」



痛みをを隠すように明るく声を張り上げ、柴崎さんを促す。


柴崎さんの家は本当に私の家から十五分程度のところにあり、柴崎さんと奥さんの馴れ初めを聞いているうちにあっという間に着いた。



ちなみに柴崎さんが、学校で一番の高嶺の花だった奥さんに何回もアタックをし続けて、ニ年半かけてやっと高校の卒業式の日に付き合えたそうだ。
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