あの花が咲く頃、君に会いにいく。
どうして泣いているかなんてわからなかった。あの人がお父さんなのかもわからない。何も、わからない。


逃げるように部屋に行き、ベッドに寝転がる。


きっと寝ればまた何か思い出せる。いつもそうだったから、今回だって。



そう思って眠りについたのに、夢を見ることはなかった。





何も進展しないまま、三日が過ぎた。



「あ、早乙女。三日ぶりだな。調子いい感じなのか?」



アパートに行くと、楓は休日だからか勉強をしていて、私に気がつくとかけていた眼鏡を外した。



「えっと…それが、何も…」


「何もって、あれから何も思い出してないってことか?」


「うん…。あ、でもなんかね、私のお父さんらしき人が家に来てたんだ。玲司さんって人なんだけど。でも、お母さんはすごく怒ってた。二度と来るなって言ってたし、何かあったのかな…。そもそも離婚してるんだっけ。…何も思い出せないんだ」


「そうか。中町に、早乙女の家庭環境を聞いた。早乙女から生前聞いたことだって言ってたから、確実な情報だ。早乙女の両親が離婚したのは、早乙女が小学生の頃らしい。詳しくは中町も知らないって。それと、早乙女と早乙女のお兄さんはどっちも交通事故で亡くなったそうだ。中町のお母さんにも話を聞きに行かせてもらった。早乙女のお母さんはやっぱりずっと家から出ていないらしいな」


「そう、なんだ…」



…あれ、そういえば何かお母さんが気になることを言っていたような…。


それにしても、私は何もできていないのに、この三日間で楓はそこまでしてくれたなんて。申し訳ない気持ちが出てくる。



「私、また家戻るね。何か思い出したら知らせに来る」


「ああ、わかった。無理はするなよ」
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