あの花が咲く頃、君に会いにいく。
楓がいないと何もできなくて、自分のこともわからないまま。



–––––「その人の生きてきた人生をもう一度振り返ってみたり、向き合ってこなかったことに真正面から向き合ったりして乗り越えた人がやっと叶えることができるんだ」



いつかの天使様が言っていたことを思い出す。


向き合ってこなかったことに真正面から向き合う…。



…そういえば、お母さんとお兄ちゃんのことを早く思い出したいとずっと思ってきていたけど、お父さんのことは?


この前会うまでまるっきり存在を忘れていたかのように、お父さんのことは考えもしなかった。


夢にも一度だって出てこなかったし、今だってまだ顔とお父さんという人が一致しない。実感が湧かない。



お母さんの時は懐かしい気持ちがして、「ああこの人が私のお母さんだ」と直感的に思ったのに、お父さんには全然そんな気持ちにならなかった。


…私はもしかしたらお父さんを思い出したくないと思っているのかな。


このまま忘れていたいと思っている…?



考えても答えは出るわけもなく、仕方なく家に戻る。



「…え」



家の前にはこの前と同じくスーツ姿のお父さんが、突っ立って家を見上げていた。


インターホンを押したけど、お母さんは出てこない。


三回ほど押して諦めたのかお父さんが小さくため息をつき、踵を返してこちらに向かって来た。


そして、私をすかっとすり抜けてそのまま行ってしまった。
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