あの花が咲く頃、君に会いにいく。
「離婚…?」


「ええ、そうよ。紫音も梨央もお母さんと一緒に暮らすの」


「お父さんは?もう一緒に暮らせないの?会えないの…?」


「あの人のことはもう、忘れなさい」



ぎゅっとお兄ちゃんに握られていた手に力がこもった。


お兄ちゃんと離れ離れにならなかったことが唯一もの救いだった。



だけど三人になってしまった家族は、一年後お兄ちゃんがいなくなったことで二人になってしまった。






「は…っ、はぁはぁ…っ」



目を開けて後ずさる。


さっきまでボーと座っていたはずのお母さんは、次はテレビの夕方ニュースをボーと眺めていた。



…そうだ、あのスーツの男の人は紛れもなく私のお父さん。


しっかりしていそうに見えて実はドジで、不器用で、笑うとえくぼができる優しい人…。


大好きだったから…思い出したくなかった。あの頃の幸せはもう戻ってこないから…。



ふと、インターホンが鳴り響いた。


びくりとお母さんが反応し、玄関の方を向く。



またお父さんかも、と思い立ってリビングをすり抜けたところで玄関の鍵が開けられる音がした。
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