if…運命の恋 番外編Ⅰ「美しい女性」

そんな時に勇は美子に気づいて、美子の傍に近づいて挨拶をしたのだが、一向に返事がない。彼女に声をかけても、何のリアクションもないし、こっちを向いてもくれない。どうも、ボーっと何かを考えているようだ。
”良しもう一度”と考えて、ちょっとだけ大きな声で挨拶をしてみた。

『こんにちわ』

彼女は自分の足をかける(あぶみ)をジッとみつめて、身動きさえしない。
”馬に乗ろうと考えてるのか?”
勇はフッと苦笑いをして、大きく息を吐いてから立ち去ろうと踵を返した。

”そうだよな、普通そう簡単に話なんかしないよな” そう思った時、後ろから大きな声をかけられた。

美子は呆然としたまま ため息と同時に顔を横に向け、力のない目で周りを見渡した。その瞳が大きく開いて瞬きをした。
” あっ!!! 彼だわ、 間違いない !!”

馬を引きながら歩く後姿に、あの時助けてくれた彼に間違いなかった。
美子は勇に向けて、焦りながら大きな声をあげた。

「あの! 片瀬勇さんですよね!!」
『えッ?』

自分のフルネームを呼ぶ声に勇は振り返り彼女の視線をとらえた。そして、もう一度彼女の傍に近づく。
『俺の名前、どうして?』
「あっあの、この間クラブハウスであの後、まわりからお聞きしたんです」
『あ~ッ、なるほど。僕の事、知ってる人がいたんだ?』
「・・殆どの方が知ってましたよ」
『へぇ~そうなんだ』
「あの、、私、ハンカチをお借りしたままで」
『ああ、それは大丈夫だけど、肘の傷は治った?』

そう言いながら、彼が自分の肘の部分を指さす。

「ええ、もうすっかり良くなりました。この間は助けていただいたのに、お礼も言わずにごめんなさい。そして、ありがとうございました」
『いや・・』

< 18 / 32 >

この作品をシェア

pagetop