if…運命の恋 番外編Ⅰ「美しい女性」
馬から少しだけ離れて、緑の芝生の上に並んで座るふたりは自己紹介に始まり、色んな話をした。
美子はもともと男性に対して消極的であったが、勇の優しい雰囲気に安心できていた。それに、最初に会った日にあんなセンセーショナルな事件に遭い、お礼も言えなかった勇に対して、ずっと会いたかった気持ちが募っていた。
勇は話をしながら瞳を輝かせる彼女に笑顔を向ける。
『うん、そうだね。』そして相づちをうつと、彼女も彼にキラキラの笑顔を向ける。
それから、勇と美子は乗馬クラブで会っては良く話をするようになった。
ふたりとも、待ち合わせなどしていないのに、 いつもの場所 ”この芝生の上で”・・
ある日、医大生の友人から勇は言われた事があった。
「片瀬、お前さ、クラブで坂上美子さんと仲がイイって?」
『えッ?ああ、普通に話をしてるだけだよ』
友人は声をひそめて勇に言った。
「そうか、特別な想いは無いんだな?!いや、それなら良いけど、彼女はダメだからなッ!」
”彼女はダメ?” そんな風に言う友人に勇は聞き返した。
『何でダメなんだ?』
「お前は元々、女に興味ないだろうから知らないと思うけど、彼女は良家のお嬢様でさ、すでに結婚する相手も決まっる。そんな家柄なんだよ」
今は”結婚”なんて言葉を耳にしても 何の実感もないし、
考えてさえいなかった勇だったが、友人の話を聞いて妙に考えさせられた。
自分はまだ大学生で、将来だって何も決まっていない。
大学は卒業出来ても、医師の国家試験だってクリアしなければならないし、
就職先だって何ひとつ決まっていない。
だけど・・彼女の将来は すでに決まっている?
それも一生の伴侶である相手が?
そんな話を聞いて、勇は胸の中がモヤモヤした
漠然としないその状況は、いつになく勉強も集中できないでいた。